美しい口元や自分の歯でしっかりと噛める喜びなど、矯正治療を受けることで得られるメリットはたくさんあります。しかし、「矯正治療は痛そう」というイメージから、治療に不安を感じている人もまた、少なくないのではないでしょうか。
矯正治療でまったく痛みや違和感がなかったという人はまれですし、多くの人は治療中に何らかの異常を感じています。しかし、矯正治療中ずっと痛いわけではありませんし、耐えられないほどの痛みに襲われることもほとんどありません。時間の経過とともに少しずつ慣れてきますし、薄らいでくるものです。
◆矯正による痛みの正体は「炎症」と「血行障害」
矯正治療中の痛みはいったいどこから来るのでしょうか? これは炎症反応ということで説明ができます。
歯は、根の周りを歯根膜(しこんまく)という膜に覆われており、歯槽骨(しそうこつ)という骨に根が埋まる形で生えています。この歯にワイヤー・ブラケットや取り外し可能なマウスピース型矯正装置など、何らかの矯正器具を使って弱い力を長時間かけ続けると、歯周組織にある様々な細胞の働きで歯の進行方向側の歯槽骨が吸収され、歯が動き、動いた反対画では歯槽骨が増生されるという現象が起こります。
これが、矯正治療で歯が動くしくみです。歯槽骨の吸収と添加の際に起きる炎症反応が、痛みの元になっているのです。
一方、歯の移動に伴う血行障害とは、歯が動くことによって歯根膜内にある血管が圧迫されて血行が悪くなるという現象です。従って、あまりに強い矯正力が働いて、血流が途絶えるなどした場合は、かえって歯が動きにくくなります。矯正の力が強くても、また何度もかけ続けるのも効率が悪い治療につながるのです。
◆矯正による痛みが強いのは装置の調整から数日間
矯正中の痛みは、基本的に「歯が動くことで起きる痛み」なので、歯の動きに合わせて矯正器具をつけてから数日間は強く、その後は徐々に治まるのが特徴です。
歯列矯正装置は大きく分けると、固定式と可撤式に分けられますが、見た目と取り外しの観点からでは、歯にブラケットと呼ばれる小さな器具を取り付け、そこにワイヤーを通して歯を動かす「ワイヤー矯正」と、透明なマウスピースをはめることで歯を動かす「マウスピース型矯正」が代表的な装置と言えます。どちらでも歯が動く原理は同じですが、どちらの方法を取るかによって治療のサイクルや痛みの感じ方は多少違ってきます。
・ブラケットとワイヤーを使う場合
ブラケットとワイヤーを使う場合、歯を動かす期間中は3~6週間に一度通院して、矯正器具の調整を行うのが基本です。痛みは個人差もありますが、矯正器具をつけた(調整した)3時間後ぐらいから違和感や痛みが出始め、翌日から3日目頃がピークになります。痛みがピークのころには、食事の際に咀嚼するだけで痛みが走ることもあります。
その後は徐々に治まり、2週間ほどで違和感がなくなるのが一般的です。
・マウスピース型矯正装置を使う場合
マウスピース型矯正は、1~2週間に1度マウスピースを交換して歯を移動させていきます(交換の頻度は治療計画や症状などによって異なります)。マウスピース交換直後には軽い圧迫感を感じることがありますが、それは徐々に薄れ、ほとんどの場合3日後辺りでなくなってきます。また、マウスピースを外してしばらくは、食事をすると少し痛むことがあります。一般的に、ブラケットとワイヤーを使う方法に比べて、痛みが少ないと言われてます。
矯正治療中にある程度の違和感や痛みを覚えることは避けられませんが、そのサイクルや対処法を知っておけば、うまく乗り切ることが可能です。痛みがあるからといって矯正治療という選択肢を避けてしまわずに、興味があればぜひ一度、矯正歯科医院で相談してみてください。